酒見賢一『後宮小説』 – 司馬遼太郎風一代歴史大河ドラマ…と思ったらファンタジー!

恩田陸の、確か『小説以外』という、その名の通り小説以外の彼女のお仕事を1冊にまとめた本がある。
心の底から読書が好きなんだなぁ、というのがしみじみと伝わってきて、その読書量にも、読書に対する姿勢にも激しく共感を覚える一冊。
この本には、ミステリーを中心に恩田陸自身が読んできた本のタイトルがずらり登場する。
実は私はこっそりこのタイトルをリスト化し、手帳に挟んで持ち歩いては古本屋などで探してみていたりする。

酒見賢一の『後宮小説』は、恩田陸が熱烈なラブレターとも言えるような文章とともに紹介している一冊。
ずいぶん前にBookoffで見かけて買ったものの、その時は最初の10ページほどを読んだところで違和感を覚えて放置していた。

今回リベンジと思って読み返してみたら、なんで途中で違和感を覚えて放り出していたのかが我ながら理解できないくらい面白くて、一気に読了。

 

この小説、第1回日本ファンタジーノベル大賞を受賞している作品。
なので、当然ファンタジーなのだけれど、「ファンタジー」という言葉から連想させられるような魔法使いとか妖精とか冒険者とかは一切登場しない。

だいたい、書き出しが
「腹上死であった、と記載されている。」
ときたもんだ。
(この書き出しはかなりインパクトがあり、受賞当時話題にもなったらしく、レビューを見ているとこの冒頭部分に触れているものをたびたび目にする。)

タイトルが示す通り、中国の後宮を舞台とした歴史的な大事件を、司馬遼太郎的な語り口調で描き出す一代歴史ドラマ!
・・・と、思うとだまされるのです。
なにしろ、この作品はファンタジー。
司馬遼太郎的に「筆者が思うに」とか「かの歴史書『素乾史』の記述からも分かるように」とか、いかにも本物らしい王朝の名前や年号が登場したりするので、まるで本当にあったことのように錯覚してしまうのですが、一から十まで全部が創作なのです。

多分、前回読んだときはこの「この小説はファンタジー」というところをうっかりと見落としてしまい、司馬遼がちょいと苦手(嫌いではないが、のめりこむまでに時間がかかるうえに、のめりこんだら一気に読まないと持続できない)な私は「あー、この手の話か」と本を放り出してしまったに違いない。

けど、これは面白いものを見せてもらった!

改めて読んでみると、司馬遼的な語り口調は登場人物の心情に深入りしすぎず、後宮という女の嫉妬と宦官の権力欲渦巻く世界を俯瞰するようにさーっとなぞって見せてくれていて、それが一気に読み進むための軽やかなテンポを作っているようにも思える。
司馬遼太郎の場合はそれがたびたび余計な説明のように思えて、注意散漫な私はすぐに話の本筋を見失いそうになるので苦手だったりするのだけれど、さほど厚くない文庫本1冊という長さならば集中力も保てる。

酒見賢一という人のほかの作品も読んでみたくなったし、ここはいっちょダンナ様が大好きな『坂の上の雲』も頑張って読んでみるかなーなんて思ったりして。

 

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